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東京家庭裁判所 昭和47年(家イ)7097号 審判

申立人 渡辺ひろ(仮名)

相手方 渡辺松雄(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

長女里子(昭和四六年六月二四日生)の親権者を申立人と定める。

相手方は申立人に対し金五〇万円を即時、金二〇〇万円を昭和四九年一一月三〇日限り、およびこれに対し前者については本裁判確定の日から、後者については期限到来の翌日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

理由

申立人は相手方との離婚等を求めて本件申立に及んだものでその申立の実情は次のとおりである。

一、申立人と相手方は昭和四五年九月ころホテル・○○で挙式して同年一〇月から申立人の肩書住所で同居し、昭和四六年六月二日に婚姻の届出をした夫婦であり、昭和四六年六月二四日長女里子が出生した。

二、相手方は同居後、生活費として七万円と二~三万円を申立人に渡したのみで、その後は生活費を渡さず、申立人は借家の家賃を申立人の母小林すぎのから借りて支払うという状況であつた。

三、相手方は昭和四六年六月からカリエスで○○共済病院に入院し(この間に長女出生)、昭和四七年三月に退院したが、その後昭和四七年五月に三万円、六月に一万円、七月に五、〇〇〇円を申立人に渡したのみであつた。

四、昭和四七年八月以降、相手方は住所も告げず音信不通となり、家族を棄てて顧みないで今日に至つている。

五、申立人としては、このような状況のもとで相手方との婚姻を維持することはできないから、この際離婚したい。長女の親権者には申立人がなつて、監護養育に当ることを希望する。

六、申立人と相手方とのホテル・○○での挙式の費用一三万四、四八〇円は相手方が負担するという約束であつたのに、相手方は全くこれを支払わないので、申立人が母小林すぎのから借りて支払つたが、その他に前記のとおり借家の家賃八万円(昭和四五年一〇月から昭和四六年六月までの分)、長女里子の出産費用六万〇、七〇〇円、相手方の入院費用一五万円および自宅の電話代七万六、〇〇〇円等も同じく申立人が小林すぎのから借り入れて支払つた。すなわち以上合計五〇万一、一八〇円に相当する金額を相手方は申立人に対し財産分与として支払うべきである。

七、前項のほか、申立人の離婚のやむなきに至つた精神的苦痛に対し、相手方は申立人に対し慰謝料二〇〇万円を支払うべきである。

申立人主張の身分関係については戸籍謄本の記載によつてこれを認めうるところ、本件については昭和四七年一二月一二日から昭和四八年七月二七日までの間、八回にわたり調停委員会の調停期日が開かれたが、相手方は一回も出頭せず、調停委員会の調停を成立させることができない。

しかしながら、相手方が調停委員会によせた昭和四八年一月二二日付の手紙および当庁調査官鈴本健一郎の調査報告書によれば、相手方も申立人との離婚および長女の親権者を申立人と定めることに同意しており、財産分与および慰謝料についても申立人の要求額どおりなら今後一年半くらいの間に支払う旨の意思を表示し、然るべき代理人によりその旨の調停を成立させることを委任する趣旨で白紙委任状および代理人許可申請書(いずれも昭和四八年七月九日付)を同調査官に託したことが認められ、また、申立人の調停委員会に対する供述によれば、ほぼ申立の実情のとおりの事実が認められる。

そうすると、諸般の事情に照らし、相手方が申立人を悪意で遺棄したか否かは一応おくとしても、すでに婚姻の実体は失われ、両者の関係は破綻しているから、婚姻を継続し難い重大な事由があるというべきである。すなわち両者は離婚によつてそれぞれ前途に別個の人生を見出すのを相当とすべく、長女里子は未だ幼なく、現に母である申立人に監護養育されている以上、申立人を同人の親権者と定めるべきである。

また、申立人の主張する出費(借入金)は相手方から申立人に償還させることが婚姻関係の清算上相当であり、これは広義の財産分与というを妨げない。離婚に伴う慰謝料は、申立人が女性としての青春を失つた代償および長女の養育を担当する諸般の制約に対する補償として金二〇〇万円を相当と認める。ただし右慰謝料については、相手方の資力その他の事情を斟酌して一年半の期限を許与すべきであるが、右各金員につき、それぞれ弁済期後支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付すべきである。なお、長女の養育費については本件とは別個の手続で定められなければならない。

以上のとおりであるから、当裁判所は調停委員原武一、同神谷愛子の意見を聴き、家事審判法第二四条に基づき、事件の解決のため、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で主文のとおり審判する。

(家事審判官 田中恒朗)

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